▼えーっと、知らないうちにブログは終わったそうです。良かったですね。
▼「ブログは終わってなんかいない!」安西繁樹は、飛沫を口角からほとばしらせるほどの勢いで怒っていた。実際には無言だった。彼は引きこもりだった。ただただ内心怒っていた。彼は暇にまかせてブログを運営していた。話題になっている記事をクリッピングしてそれに対する考えや意見を書くことと毎日更新することを目標に始めた彼のブログは、スパム以外のトラックバックこそ少ないものの、定期的にコメントを付けてくれる人がいるサイトにはなっていた。そのコメントは珠に「通りすがり」などと名乗り、批判的なコメントを寄せる者もいたが、彼はそんなコメントは気にしていなかった。いや、気にはしていたのかもしれない。しかし、それ以上に、そんなコメントのあとには必ず好意的なコメントをしてくれる「hiro」という人の存在が彼にとっては大きかった。そのハンドルネームとコメントの書き口から推定するに「女性」であろうhiroは、時に励まし、時に親身になって彼の意見に同意するのだった。実際、彼は「hiro」に恋をしていた。その出会いの場を与えてくれたのが「ブログ」なのである。それを今、否定されたのだ。彼は「ブログは終わっていない!」と題した長文エントリーを書きに書いた。欲望のおもむくままに。そう、そのエントリーもまた、他のエントリー文章と同様、hiroの反応を期待して書かれている文章であった。毎日更新しているのは今やhiroのためである。まさに欲望のおもむくままである。長文を投稿し終えた彼の表情には、満足感とリビドー全開の期待が張り付いていた。
その投稿と時を同じくして、一人の女性がモニターを見つめていた。『ブログは終わっていない!』と題された文章を写したモニターの光に照らされた彼女は、キーボードを叩いた。

投稿者:hiro
本文「そのとおりだと思います!(><) みんながshi-geekさんのように考えればいいのに!と思います(^-^)」

shi-geekこと繁樹は、期待通りのhiroからのコメントにこれ以上無い興奮と満足感を得ていた。

投稿者:shi-geek
本文「ですよね!hiroさんのような人と出会えただけでもブログには価値がありますよね(^-^)まだ出会って無いですけどリアルでは(;^^)いい機会ですし(?)今度オフ会でもしませんか?」

投稿者:hiro
本文「いいですねオフ会!詳しくはメールします(^-^)/~~でわでわ」

ここに、彼にとってのブログが大成した。こうして男女が出会うこととなったのである。彼の引きこもりが解消される兆しも見えてきた。出会いは突然。走り出した列車。ブログは実に有益だ。めでたしめでたし。


余談ではあるがhiroについてもう少し詳しく書こう。彼女は若くして妊娠、出産するも夫のDVに悩み、離婚。自宅の一階で開いているスナックと売れない歌手業のかたわら、女一人手で息子を育てようとした。しかし、息子は自分の家庭境遇に悲嘆しきってしまっている。彼女は、今日も夕食を息子の部屋に届ける際、声をかけた。「廊下に、夕食置いておくからね。繁樹?」しかし、息子の部屋から返ってくるのはキーボードを叩く音のみ。そんな彼女の日常からの逃避手段がネットだった。彼女のハンドルネームは「hiro」。本名を安西紘子(ひろこ)という。齢、今年で四十四。CMで「ポンピン♪」と言っていた彼女を覚えている者は、もう、いなかった。


そして、今、オフ会は着々と開かれようとしている。出会いは突然。走り出した列車。列車は急に止まれない。
▼ケビン山崎にトレーニング受けてる・受けてた芸能人

今、確認しているのはこれくらいです。他に知っていたら教えてください。